未来の価値 第34話


「ユフィ?どうしてここに?」

ルルーシュが来る前に帰ってもらうというスザクの願いは聞き届けられる事はなく、このごたごたの最中ルルーシュは起きてきた。きっちりと身だしなみを整えているため、彼がスザクの部屋で惰眠を貪っていたとは誰も思わないだろう。
ユーフェミアとSPの姿に、ルルーシュはダブルブッキングかと視線をロイドに移す。
だが、どう見てもロイドはユーフェミアに対して友好的な態度ではないし、周りが困ったような表情をしている為、ユーフェミアが独断でここに来た事は容易に想像できた。

「ルルーシュ、私もお話しに参加させてください」

笑顔で兄にお願いをする姿に、SPたちは慌てた。

「ユーフェミア様」
「いいじゃありませんか、少しぐらい」

ぷう、と頬を膨らませSPに文句を言う。
少しといっても、ここに来てから既に30分は経っている。その間も家庭教師は部屋で待たされ、決済待ちの書類が執務机に放置されていた。仕事を放棄して来たのだと気づいたルルーシュは、困ったように笑った。

「ユフィ。これからロイドと話をするのは、サクラダイトによるエネルギー供給をいかに効率化させるかという話だから、君には面白みがないと思うが」
「というか、内容理解できませんよねぇ?」
「ロイドさん!」

ちょっとこっち来てください!
セシルはすみませんと何度も頭を下げながら、ロイドを引きずってランスロットの傍まで移動した。そこはスザクのすぐ傍でもある。

「確かに今は解りませんが大丈夫です!解らない所は教えてくださいね」

小首を傾げながらのお願いは確かに可愛らしいのだが、彼女に理解させるにはKMFの構造に関する基本中の基本から叩きこむ必要がある。このままでは「これは何ですか?アレは何ですか?どうしてそうなるんですか?もう少し解り易く説明してください」という流れになりかねない。そうなれば大幅に時間をロスすることになるだろう。
その様子が容易に想像できて、意欲を持つのはいい事だが、これは困ったなと、ルルーシュは辺りを見回した。確かこの辺に・・・と辺りをつけた場所に目当ての物を見つけたルルーシュは、機材に埋もれた本を一冊手に取りユーフェミアに渡した。
それはKMFの構造に関する入門書のような物で、KMFの内部構造や原理が解ればより動かしやすくなるだろうと、先日スザクに持ってきたのだが、頭で考えるより感覚で操作するスザクは2.3ページめくっただけで挫折した。操縦方法のマニュアルなら真面目に読むのだが、こういう仕組みに関するものはどうしても目が滑るらしい。
入門書だけあって基礎中の基礎が書かれているそれを、ユーフェミアはぱらりとめくると、美しい顔の眉間にしわを寄せぱたんと閉じた。
これは読むのを断念した顔だ。
反応がスザクに似ていると、思わず苦笑する。

「ユフィ。それはKMFの構造に関する基礎理論だ。それを全て頭に入れて、俺が出すテストに合格できたら参加を認めよう」
「そんな意地悪言わないでください」

これを読んでからとなれば、今日はもう帰らなければならない。
今、参加したいのだとユーフェミアは言ったが、ルルーシュは首を振った。

「基礎さえ解らない君にも理解るように話を進めると、それだけ時間がかかる事になる。それはロイドたちの仕事を妨げることにも繋がるのは解っているだろう?参加したいのであれば、最低限の知識を身につけてからでなければ許可出来ない」

返そうとした本をルルーシュは押しとどめ、持ち帰るよう促した。

「・・・スザクはどうなんですか?」
「スザク?」

どうしてここでスザクの名前が出るんだと、ルルーシュは小首を傾げた。

「スザクもこれらを理解したうえで話に参加するのですか?」

こんな内容を理解しているのは、技術者とルルーシュぐらいだし、もしこの基礎をスザクが理解できてないならユーフェミアと同じで参加する意味はないのではないか。そう言いたげだった。

「スザクはパイロットだ。俺たちには解らない面を彼が補ってくれる。君も確かに基礎的な操作は出来るだろうが、ランスロットのデバイサーとして選ばれたスザクとは比較にならないだろう?」

何より彼の乗るランスロットの事なのだから、実際に騎乗するスザクからもたらされるデータは、口頭で発せられる感覚的な物でも、重要な意味を見出す事は大きい。いくら計算に計算を重ね、シミュレートした所で、それらは机上の空論の域を出ない。実際にスザクが騎乗することで、その理論が正しいかは証明されるのだ。

「それは・・・そうですが」
「それに、君の家庭教師は政庁で待っているはずだ。彼らだって暇人ではない。君のために時間を割いて来てくださっているし、何より彼らに払う費用は税金で賄われている事を忘れてはいけない。それだけじゃない、君には副総督としての」
「待ってください!・・・わかりました、政庁に戻ります!」

ルルーシュが説教を始めたため、ユーフェミアは慌ててルルーシュを止めた。
ルルーシュの説教は長い上に難しい言葉が飛び交うため、ユーフェミアは苦手だった。それに、目的であるスザクがいない以上此処は引くべきだと判断したようだ。

「・・・みなさん、ユーフェミアを頼みます」

ルルーシュはSP達にそう言うと、彼らは「イエスユアハイネス」と明るい声と共に頭を下げた。その顔には安堵の色が見える。彼らはコーネリアからもユーフェミアの事を言われているはずだから、彼女の自由気ままな行動はストレスでしか無いだろう。

「やっと帰ってくれそうだねぇ」

心底うんざりしたという顔でロイドはつぶやいた。
隠れているスザクと、傍にいたセシルにだけ聞こえる小さな声で。
セシルは見送りのため、慌ててユーフェミア達の方へ戻っていった。

「・・・あの、ユフィはよく来るんですか?」

動く様子のないロイドに、恐る恐るスザクは尋ねた。

「よくなんてもんじゃないよ。流石にカワグチコの日には来なかったけど、それ以外はほぼ毎日!」

どうせ碌な理由も無いだろうから、君には言わないでおいたんだけどね。
彼女がここへ来始めた頃は、お詫びも兼ねたシュナイゼルの計らいでスザクは学園に毎日通える状態となっていたし、休みの日にはルルーシュの傍にいる。だからユーフェミアと個人的に接する機会がなかったので、今まで知らずにいただけだった。

「・・・毎日、ですか。僕に何の用なんだろう?」

それほど頻繁に来るのであれば、何か重要な話があるのではないだろうか。
総督のクロヴィスや、上司のロイド達を通すことなくスザクに重要な話?想像もできなくてスザクは眉間にシワを寄せ、うんうん唸った。

「さあねぇ。僕にもサーッパリ解らないよ。話があるなら君が政庁にいる時にすればいいのにね」

邪魔なんだよね、毎日毎日。
ユーフェミアの姿が見えなくなったことで、ロイドは一気にテンションが上がり、両手をあげて「殿下、よく来てくださいました~」とルルーシュへ向かい楽しげに言った。

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